長崎地方裁判所 昭和52年(わ)106号 判決 1980年3月05日
主文
被告人〓田、同吉田をそれぞれ懲役一二年に、被告人岩〓を懲役五年に処する。
未決勾留日数中、被告人〓田、同岩〓に対しては各八〇〇日、被告人吉田に対しては七五〇日を、それぞれその刑に算入する。
被告人〓田から、押収してある回転弾倉式けん銃一丁(昭和五二年押第八六号の1)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
第一 松本勝敏殺害事件
一 犯行に至る経緯
被告人吉田は暴力団山川組(組長山川力)の幹部であつて暴力団吉田組組長と目されていたもの、被告人〓田は右山川組組員であつて被告人吉田の配下に属していたもの、被告人岩〓は右山川組と親交のある暴力団一誠会の組員であつたものである。ところで、右山川組は長崎市内を中心に活動していたが、同市内には、他に暴力団松本組(組長松本敏久)も存し、右松本組は昭和四九年ころ、広域暴力団山口組系山健組の傘下となるなどしてその勢力を伸長していた。そこへ以前松本組と反目してその事務所にダイナマイトを投げ込み服役した植木唯一や東浜俊則が刑務所を出所し、再び長崎市に戻つて暴力団員として活動することを希望し、右山川が松本組に植木らの右の意向を伝えて折衝したものの、松本組がこれを拒否する態度に出たことから、遂には山川組と松本組とが反目するような事態となつた。そのため、山川は、植木らに資金を援助して暴力団一誠会を組織させてこれを自己の系列下に置き、さらに長崎市内の暴力団佐竹組とも結託して松本組に対抗する態勢をとつたところ、昭和五二年二月中、松本組と一誠会との間に二、三の小競り合いがあつた後、同年三月五日にいたり、長崎市内の飲食店で一誠会組員が松本組組員を殺害しょうとしてけん銃を発砲するという事件が発生するなどし、さらに、その後、松本組と一誠会との間で互いに組事務所を襲撃し合うなどして松本組と山川組や一誠会等との抗争は次第に激化するにいたつた。このような情勢から、被告人吉田は、事態の収拾を図るために、松本組代貸水田元久と交渉して、一時好転の兆も見られたが、松本組長が服役中であつたり、水田自身が逮捕されたりしたため、最終的な決着には至らないまま、同年五月に松本組長が出所し、その後松本組からは何の連絡もないばかりか、かえつて松本組が山川や被告人吉田などの命を狙つているとの情報も流れたことから、被告人吉田は、松本組壊滅のために同組組長の殺害を企図するにいたり、被告人〓田やその弟分の小森勉、中西一男らに命じて松本組長の動向を探らせるなどして殺害の機会を狙つたが、成功するには至らなかつた。
その後、多少の小康を得たが、同年八月二〇日ころ、松本組若頭で同組組長の実弟である松本勝敏が組員四、五人と連れ立つて山川の居住する長崎市籠町九番二七号所在のこがねビルにいやがらせに来ている旨の連絡を山川から受けた被告人吉田は、山川の身辺を警護するため一誠会等の組員らを派遣させてこがねビル周辺の警戒に当たらせるようになつた。
かくして同月二四日は、午後六時ころから、山川組と親交のある暴力団長田組の組員平田豊昭、一誠会の組員である宮木新及び被告人岩〓が山川ビル周辺で警戒に当たつていた。ところが、翌二五日午前二時ころ、勝敏が三、四人の組員を連れてこがねビルに入るのを認め、宮木は、被告人岩〓から同被告人が所持していたけん銃を受け取り平田とともに山川が居住するこがねビル四階にあがつて山川方の警護に当たり、一方、被告人岩〓は、被告人吉田に電話して、勝敏らが来た旨及び兇器が不十分である旨を連絡した。
二 犯行
右のような被告人岩〓からの急報により事態を重視した被告人吉田は、勝敏らが山川宅を襲撃したり警護に当たつている被告人岩〓らとの間で喧嘩になつたりするような事態にでもなれば、これに応戦し、この際、勝敏らを殺害するもやむなしと決意し、直ちに居合わせた小森に命じて被告人〓田にけん銃を持つて至急同市五島町三番三号所在プレジデント長崎七〇二号の被告人吉田方に駆けつけるよう呼びにやらせた。小森から被告人吉田の右指示を聞いた被告人〓田は、自宅に隠し持つていた三八口径回転式けん銃(スミスアンドウエツソンチーフスペシヤル)一丁及び予備弾七発を携帯して小森とともに被告人吉田方に急行したのち、その応接間において、被告人吉田にけん銃を持参した旨告げてこれを見せたところ、小森が自分に持たせて欲しい旨要求したので、右けん銃と予備弾を同人に渡し、その後、被告人吉田から勝敏がこがねビルに来ている旨の説明を受けて直ちに一誠会組員らの加勢に行くように命じられ、被告人吉田から自動式二二口径けん銃ベレツタ一丁を受け取つて小森とともに出発すべくエレベーターに乗り込もうとした。その際、被告人吉田は小森を呼び戻し、被告人吉田方玄関口付近において、「一誠会のもんがやつけん、一誠会のもんがやりきらんときは小森お前がやれ。〓田にはさせるな。」と耳うちして、小森もこれを了承し、ここに被告人吉田と小森との間に、勝敏らと喧嘩にでもなつて一誠会組員が勝敏を殺害できなかつた場合には小森において勝敏を殺害する旨の共謀をした。このようにして被告人〓田及び小森は各々けん銃を所持してこがねビルに赴き、同ビル四階で警戒に当たつていた宮木、平田らと合流し、小森において勝敏らの様子を偵察すべく同人らの飲酒していたスナツク「サンポール」がある同ビル二階に降りて行つたが、その際、小森は被告人〓田に対し「兄貴は絶対にはじきますな。自分が行つて見てきますけん。」と言つて勝敏らと喧嘩にでもなれば自分が同人を殺害する旨を暗に伝えた。同二階付近で小森は勝敏と出会つたが、このときは険悪な事態に至らず勝敏がこがねビルを立ち去つたため、被告人岩〓と小森は、勝敏らの動向を窺うべく被告人岩〓が借りてきていた普通乗用自動車の運転席に被告人岩〓、助手席に小森が着席してこがねビル前から十善会病院方面へ発進したが、そのころ、勝敏が松本組と親交のある神農会の事務所に入つたものとみた小森は岩〓にその旨伝え、これを聞いた被告人岩〓は長崎市内湊公園付近の公衆電話からこがねビル向い側のナイトレストランで待機中の一誠会組員福田勇次に電話して、勝敏らが近くの神農会事務所に兇器を取りに行つたやも知れないので味方の用心が必要である旨を伝え、再び小森とともにこがねビルへと向かつた。その間、被告人〓田は、こがねビル三階階段付近において、勝敏が立ち去つた後も残つていた松本組組員松本強らと出会つて同人らに早々に立ち去るよう要求したことから同人らと口論となつた挙句、同人らを追つて同ビル一階まで降りたが、たまたま同ビル付近まで勝敏が戻つて来ていたため、今度は同人との間で激しい口論となつて極めて険悪な状況に立ち至り、勝敏が配下に指示してけん銃を取りに走らせた際、被告人岩〓の運転する車で小森が戻つて来たところから、被告人〓田は小森らに命じて勝敏を殺害させようと決意し、「勝敏はあすこにおつぞ。」と小森らに指示した。
その場の険悪な状況を既に察知していた小森は、前記のとおり被告人吉田から場合によつては勝敏を殺害するよう指示されて了承していたこともあつて、被告人〓田の右言葉を勝敏殺害の指示であることを理解したうえで、勝敏殺害の決意を固め、被告人岩〓に「行つてくれんね。」と促して車を発進させ、ここに被告人〓田と小森との間に勝敏を殺害する旨の意思を相通じた。他方、被告人岩〓は、被告人〓田の右指示を聞き、さらに、小森から前記のとおり車を発進させるように促されるや、小森が当然けん銃を所持していると思われる状況であるところから、同人が勝敏を射殺するかも知れないことを察知しながら、同人を殺害するもやむなしと決意してこれを了承し、あえて車を微速運転して勝敏に接近し、ここに被告人岩〓と小森との間で勝敏殺害の意思を相通じた。以上のとおり、被告人吉田、同〓田、同岩〓及び小森は順次その意思を通じて共謀のうえ、勝敏を殺害しようと企て、小森において、同日午前二時五〇分ころ、所携の前記三八口径回転式けん銃を取り出し被告人岩〓運転の車で勝敏に近づき、同市籠町九番二六号スナツク「シヤフト」こと井上正子方前路上において走行する右車の助手席から勝敏に向けてけん銃を三発発射し、うち一発を同人の右側胸下部に命中させ、よつて同人をして同日午前二時五五分ころ同町七番一八号十善会病院において右側胸下部射創(肝右葉、下大静脈貫通、胸部大動脈破裂、左肺下葉貫通)による失血のため死亡するに至らしめて殺害した
第二 被告人岩〓は、一誠会組員の坂井清人が、昭和五二年二月一五日ころ、松本組幹部城尾哲弥他一〇名位から殴打されるなどしたため、さらに右城尾らから長崎市目覚町一番二〇号ヤナセコーポ五〇三号室の一誠会事務所を襲撃されるおそれがあつたので、一誠会組員らとともに、そのころ右一誠会事務所内に日本刀、脇差、あいくち等を準備していたところ、同月二六日午後一〇時ころ、前記坂井及び一誠会組員らにおいて、城尾を拉致しようとして失敗したことから、いよいよ城尾ら松本組組員からの襲撃を受ける事態になつた翌二七日午前零時ころ、前記一誠会事務所において、右一誠会組員ら約一〇名と共同して、前記城尾ら松本組組員の襲撃を迎撃してこれを撃退するため、その身体生命に危害を加える目的で兇器の準備あることを知つて集合した
第三 被告人〓田は、法定の除外事由がないのに、昭和五二年三月二六日午後二時ころ、長崎市文教町八番一号松山ビル四〇一号内において、けん銃二丁(昭和五二年押第二五号の12)及び実包一〇発(同号の34)を所持した
第四 被告人吉田は、法定の除外事由がないのに、昭和五二年六月初旬ころ、長崎市文教町八番一号松山ビル四〇一号室の当時の自宅において、自動式けん銃(ブローニングベビイ二五口径)一丁及び実包六発を所持した
第五 被告人〓田は、法定の除外事由がないのに、昭和五二年七月二日ころ、長崎市五島町三番三号プレジデント長崎七〇二号室において、三八口径スターフアイヤー自動式けん銃一丁を所持した
第六 被告人吉田は、法定の除外事由がないのに、昭和五二年七月初旬ころ、長崎市五島町三番三号プレジデント長崎七〇二号室自宅において、スミスアンドウエツソン・チーフスペシヤル回転式けん銃一丁及び実包五発を所持した
第七 被告人〓田は、法定の除外事由がないのに、昭和五二年七月一〇日ころから同年九月一六日ころまでの間、情を知らない知人高橋和幸に依頼し、同人が勤務する長崎市西山町四丁目五四七番地蒲原タクシー株式会社西山営業所倉庫ロツカー内にアルゼンチン製回転弾倉式けん銃一丁(昭和五二年押第八六号の1)を隠匿させてこれを所持した
第八 被告人〓田、同吉田は共謀のうえ、法定の除外事由がないのに、昭和五二年七月中旬ころから同年九月二五日ころまでの間、長崎市西小島町松頭ノ一墓地第二四号(一)所在の吉田ハルヲ所有の墓地納骨室においてダイナマイト一〇本及び電気雷管一一個を隠匿所持した
第九 被告人岩〓は、法定の除外事由がないのに、昭和五二年八月一六日ころから、同月二四日までの間、長崎市東琴平一丁目二番地墓地内の地蔵堂内において、回転弾倉式改造けん銃一丁、実包二発を隠匿所持した
第一〇 被告人吉田は、判示第一記載のとおり松本勝敏らが前記こがねビル周辺を徘徊するようになつたことを察知するや、勝敏らが山川力宅を襲撃したり、勝敏らと喧嘩になつたりした場合には、同人らの生命、身体に対し危害を加える目的をもつて昭和五二年八月二五日午前二時三〇分ころ、こがねビル及びその周辺にけん銃三丁を準備して小森勉ほか四名を集結させ、もつて他人の生命、身体等に対し、共同して危害を加える目的をもつて兇器を準備して人を集合させた
第一一 被告人〓田及び同岩〓は、判示第一記載のとおり松本勝敏らがこがねビル周辺を徘徊するようになつたことを察知するや、小森勉、宮木新らと共に、勝敏らが山川力方を襲撃したり、勝敏らと喧嘩になつたりした場合には、勝敏らの生命、身体に対し共同して危害を加える目的をもつて、判示第一〇記載の日時ころ、こがねビル及びその周辺にけん銃三丁を準備して集合した
第一二 被告人〓田は、法定の除外事由がないのに、判示第一一記載の日時場所において二二口径ベレツタ自動式けん銃一丁及び実包六発を所持した
第一三 被告人吉田は、法定の除外事由がないのに、昭和五二年八月二五日ころ、長崎市五島町三番三号プレジデント長崎七〇二号室の自宅において、ベレツタ自動式けん銃一丁及び実包六発を所持した
第一四 被告人〓田は、法定の除外事由がないのに、昭和五二年八月二七日ころの午前一〇時ころ、長崎市五島町三番三号プレジデント長崎七〇二号室において、ブローニングベビー自動式けん銃一丁及び実包五発を所持した
第一五 被告人〓田は、小森勉が殺人の罪を犯し逃走中のものであることを知りながら、その逮捕を免れさせる目的で同人の逃走資金を調達しようと企て、山川力及び中西一男と共謀のうえ、昭和五二年八月三一日午前九時ころ、右中西において、長崎市天神町一二番五号長崎天神郵便局から電信為替で前記小森の指定する広島県福山市引野町六五四の四八、山九社宅内伊井京子宛に右小森の逃走資金として一〇万円を送金し、よつて同日午後四時三〇分ころ、同市同町六五九番地の九、小料理店「はるみ」こと伊井はるみ方において、同女を介して右金員を小森に受領させ、同人の逃走に便宜を与え、もつて犯人を隠避した
第一六 被告人吉田は、法定の除外事由がないのに、昭和五二年九月二日ころ、長崎市五島町三番三号プレジデント長崎七〇二号室自宅において、自動式けん銃(二二口径ベレツタ)一丁及び実包六発を所持した
ものである。
(証拠の標目)(省略)
(法令の適用)
被告人岩〓につき
一 罰条
判示第一の事実につき
刑法六〇条、一九九条
判示第二、第一一の各事実につき
刑法二〇八条の二第一項、罰金等臨時措置法三条一項一号
判示第九の事実につき
1 けん銃を所持した点
銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第一号、三条一項
2 実包を所持した点
火薬類取締法五九条二号、二一条
二 科刑上一罪の処理
判示第九のけん銃を所持した行為と実包を所持した行為につき
刑法五四条一項前段、一〇条により重い銃砲刀剣類所持等取締法違反罪の刑で処断
三 刑種の選択
判示第一の罪につき有期懲役刑、判示第二、第九、第一一の罪につきいずれも懲役刑を選択
四 併合罪の処理
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条により最も重い判示第一の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重
五 未決勾留日数の算入
刑法二一条
六 訴訟費用の免除
刑事訴訟法一八一条一項但書
被告人〓田につき
一 罰条
判示第一の事実につき
刑法六〇条、一九九条
判示第三の事実につき
1 けん銃を所持した点につき
包括して昭和五二年法律第五七号(銃砲刀剣類所持等取締法の一部を改正する法律)附則三項により改正前の銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第一号、三条一項
2 実包を所持した点につき
火薬類取締法五九条二号、二一条
判示第五、第七、第一二、第一四の事実中各けん銃を所持した点につき
いずれも銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第一号、三条一項判示第八のダイナマイト及び雷管の所持、第一二及び第一四の各実包を所持した点につき
いずれも火薬類取締法五九条二号、二一条(但し、判示第八の事実につき刑法六〇条を適用。ダイナマイト及び雷管の所持は包括一罪。)
判示第一一の事実につき
刑法二〇八条の二第一項、罰金等臨時措置法三条一項一号
判示第一五の事実につき
刑法六〇条、一〇三条、罰金等臨時措置法三条一項一号
二 科刑上一罪の処理
判示第三、第一二、第一四の各けん銃を所持した行為と各実包を所持した行為につき
刑法五四条一項前段、一〇条により重い銃砲刀剣類所持等取締法違反罪の刑で処断
三 刑種の選択
判示第一の罪につき有期懲役刑、判示第三、第五、第七、第八、第一一、第一二、第一四、第一五の罪につきいずれも懲役刑を選択
四 累犯加重
前記(1)(2)の各前科との関係でいずれも再犯であるから、いずれも刑法五六条一項、五七条(但し、判示第一の罪につき同法一四条の制限内。)
五 併合罪の処理
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条により最も重い判示第一の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重
六 未決勾留日数の算入
刑法二一条
七 没収
刑法一九条一項一号、二項
八 訴訟費用の免除
刑事訴訟法一八一条一項但書
被告人吉田につき
一 罰条
判示第一の事実につき
刑法六〇条、一九九条
判示第四の事実につき
1 けん銃を所持した点
昭和五二年法律第五七号(銃砲刀剣類所持等取締法の一部を改正する法律)附則三項により改正前の銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第一号、三条一項
2 実包を所持した点
火薬類取締法五九条二号、二一条
判示第六、第一三、第一六の事実中各けん銃を所持した点につき
いずれも銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第一号、三条一項
判示第八のダイナマイト及び雷管の所持、第六、第一三、第一六の各実包を所持した点につき
いずれも火薬類取締法五九条二号、二一条(但し、判示第八の事実につき刑法六〇条を適用。ダイナマイト及び雷管の所持は包括一罪。)
判示第一〇の事実につき
刑法二〇八条の二第二項
二 科刑上一罪の処理
判示第四、第六、第一三、第一六の各けん銃を所持した行為と各実包を所持した行為につき
刑法五四条一項前段、一〇条により重い銃砲刀剣類所持等取締法違反罪の刑で処断
三 刑種の選択
判示第一の罪につき有期懲役刑、第四、第六、第八、第一三、第一六の各罪につきいずれも懲役刑を選択
四 併合罪の処理
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条により最も重い判示第一の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重
五 未決勾留日数の算入
刑法二一条
六 訴訟費用の免除
刑事訴訟法一八一条一項但書
(量刑の事情)
まず、被告人三名につき共通に考慮した点を述べる。本件松本勝敏殺害事件は、暴力団相互の抗争の末、対立暴力団の組長の実弟たる幹部を殺害したものであるだけに、本件を機にさらに対立抗争が激化する危険も十分に孕んでいたものと認められ、また、深夜とはいえ市内の繁華街においてけん銃を使用して敢行されたものであつたところから、社会に与えた不安も大きく、極めて悪質な犯行であると言わざるを得ない。被告人らはいずれも暴力団員で前科前歴もあり、判示のとおり本件においては殺人以外にも多くの犯行を重ねているのであつて、反社会的傾向は強く、再犯の虞れも大きいといわなければならない。しかし、他方、本件殺人事件の発端は、直接的には、対立抗争中で一触即発の状況下にあつたにもかかわらず、被害者が、相手方暴力団の組長の居住し経営するビルに組員を引き連れて乗り込むなど無謀ともいうべき挑発的行動をとつたことにあり、このような被害者の態度にも責任の一端があるものというべきである。
次に、各被告人について考慮した点を述べる。まず、被告人吉田は暴力団幹部で、本件殺人事件の共謀者の間では暴力団内の地位が最も高く、本件殺人現場に被告人〓田や小森らを赴かせていること、本件兇器をはじめ、多くのけん銃やダイナマイトを他から購入してこれらを配下の組員に所持させるなどしていること、また、殺人未遂の前科も有していることなど被告人吉田にとつて不利な事情も多いが、他方、判示のとおり、殺人の共謀は、確定的に被害者の殺害を意欲したものではなく、条件的、迎撃的なものであつたことなど有利な事情も認められる。次に、被告人〓田は、自ら確定的に被害者の殺害を意欲し、弟分の小森に命じてその決意を固めさせて決行させたものであることからすれば、被告人吉田と同様にその刑責は重い。しかも、判示第三の犯行を除いてはいずれも保釈中の犯行であること、判示のとおり累犯前科を有することなど被告人〓田にとつて不利な事情も多いが、他方、判示のとおり、本件殺人事件の犯行現場に赴いたのは被告人吉田の指示によるものであることなど有利な事情も認められる。最後に、被告人岩〓は判示第二の犯行につき保釈中に本件殺人事件等を犯すなどしている点では犯情は悪いが、本件殺人事件については小森と共謀したとはいうものの、判示のとおり、その殺意は確定的に被害者の殺害を意欲したものではないうえ、犯行態様も幇助的であること、懲役刑の前科はないことなど有利な事情が認められる。
以上のとおり被告人三名につきこれらの事情を総合考慮したうえ、主文のとおりの量刑をした次第である。
よつて、主文のとおり判決する。